2012年9月21日金曜日

金融危機とキリスト教の宗派問題、カトリックとプロテスタント

 現在、宗教信者別の人口で一番増えているのが、イスラム教と言われています。現在では世界の宗教信者人口約67億人のうち、21.2%をイスラム教が占めており、キリスト教の33.4%はやはり多いものの、キリスト教がカトリック、プロテスタントに分かれていることを踏まえれば、世界で一番多いのはイスラム教の信者となります。しかし、近年、アラブの春に端を発するイスラムの国々での衝突で報道機関から報じられるように、イスラム教もスンニ派、シーア派という2大勢力が存在しています。イスラム教徒も一言で語ることはできず、国によって宗派はかなり異なるようです。しかし、石油資源を武器に、イスラム教諸国の存在感は日増しに高まっており、いつの日か隣で座っている人がイスラム教徒であるといった時代が、日本にも訪れるかもしれません。

 今日は、経済に確実に影響を与えているであろう、宗教と経済に関する特集記事が『週刊エコノミスト』2012年9月4日号に掲載されていましたので紹介します。右図は、同特集の冒頭に掲載されているデータに基づき作成した宗教信者別の人口を示しています。イスラム教は、飲酒、偶像崇拝を禁止するなど宗教上の厳格さがあるため、色は敢えて白色としました。図からは、やはりキリスト教徒が多いこと、キリスト、イスラム、仏教の3大宗教と言われる中、仏教の人口は、ヒンズーの人口を下回る4位となっています。今後は、インドの人口が急増することから、仏教が占める割合はさらに低下することが予想されます。

 同特集で気になったのは、キリスト教の宗派で、プロテスタントとカトリックの労働観などの相違を記述した記事です。この宗派の違いが、現在の欧州債務危機の原因の一つになっていると示唆している内容で、面白いと思いましたので紹介します。記事の題目は『欧州危機とキリスト教。危機がより深刻なカトリック諸国、勤労や禁欲への思想の違いが影響』(注)で、社会学者マックス・ウェーバーの見方を使って、現在の金融危機を説明しています。以下引用文。
 『ギリシャを含め、カトリックの国々には禁欲や勤労の姿勢が欠けている。ルターが宗教改革を行い、プロテスタントを生んだ意義は、こうした労働観から脱し、勤労意欲を高めさせたことにある。
 その際にルターが注目したのが、「天職」の考え方であった。私たち日本人が、天職という言葉を聞くと、自分にとって最も適した職業というイメージを持つが、ルターの説いた天職には、神から与えられた使命という宗教的な意味があった。
 これに基づいて、プロテスタントの中には、個人に労働に対する意欲があるかどうかが、その人間が救済を約束されている証になるという考え方が生まれた。これは労働=苦役という考え方とは対照的なものである。
 しかもプロテスタントでは、儲けた金については、それを贅沢に消費してしまうことは否定された。儲けた金を資本として蓄積し、新たな事業に投資することが好ましいとされるようになる。ウェーバーは、そこに「資本主義の精神」が生まれたと分析した。
 ドイツなどのプロテスタントの国々の人たちは、こうした精神に則って禁欲的に労働に励んだ結果、安定した経済体制を築き上げてこられた。それに対して、カトリックの国々の人たちはそれができず、奢侈(しゃし)に流れた結果、今日の経済危機を生んでいる。ウェーバーならば、そう分析することであろう』

 この記事の筆者も述べているように、上記の考え方はやや極論であるとした上で、全てのキリスト教徒がカトリックからプロテスタントへと改宗したのならば、今日の金融危機は発生しなかったのかといえば、そうではないとしています。つまり、欧州債務危機のそもそもの発生源は、米国のリーマン・ショックであり、米国ではカトリックの信者が多いものの、プロテスタントが主流派を占めていることから、金融危機全般は、キリスト教の宗派の問題ではないとしています。さらにドイツでの宗派です。ルターの宗教改革後、ドイツではルター派のプロテスタントが主流となるものの、カトリック側の布教活動の成果(?)もあって、現在でもドイツ南部はカトリックが主流となっています。事実、ドイツでは、プロテスタント30%に対して、カトリック31%となっており、キリスト教の宗派の差が欧州債務危機につながったと考えるには不自然さがあります。また、英国でもプロテスタントととはいえ、英国国教会はカトリックの教義と似通っているとされています。欧州経済の南北格差は、それよりも国民性の違いではないでしょうか。やはり温暖な気候に恵まれると、労働への意欲がやや薄れるという気がします。

(注)島田裕巳(宗教学者)。

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